大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和39年(ワ)2391号 判決 1965年10月16日

原告 朝倉亟作

被告 日本電信電話公社 外四一名

代理人 林倫正 外八名

主文

一、原告の土地所有権確認の訴を却下する。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、別紙第二目録記載の土地につき反訴原告等が無償通行権を有することを確認する。

四、原告(反訴被告)は右土地上に建築物を築造し、或は擁壁等を設置して反訴原告等の右土地の通行を妨害してはならない。

五、訴訟費用は本訴反訴を通じ原告(反訴被告)の負担とする。

事  実<省略>

理由

原告主張の別紙第一目録記載の土地と反訴原告等(本訴被告居住者等、以下必要に応じ単に反訴原告等と略称する)主張の別紙第二目録記載の土地とは坪数において一畝二〇歩の相違があり、又場所の点においても多少の相違があるが、大部分において一致するから、以下両者を本件土地と略称する。

第一、原告の被告居住者に対する本訴請求及び反訴原告等の反訴請求について、

一、原告が別紙第一目録記載の土地を所有することは被告居住者等において争わないところであり、また過去においてこれを争つた形跡もない。そうすれば当事者間に何等争いのない右土地所有権につき、原告が確認の訴を提起することは不必要なことであり、右訴は訴の利益を欠くものとして却下を免れない。

二、反訴原告等が原告所有の本件土地を通行していることは当事者間に争いがない。よつて反訴原告等が本件土地について通行権を有するや否やについて判断する。

証人富永義彦、同加藤重三の各証言とこれらによつて真正に成立したものと認められる乙第一号証、成立に争いのない乙第一六号証、同第一七号証の一ないし二五並びに反訴原告佐伯力次郎、同西垣勇各本人尋問の結果を総合すれば、訴外朝倉千代吉、同谷口藤次郎の両名は、大正の末期、その共有していた旧守山町大字小幡字北山二七七三番の土地を郊外住宅地として分譲する計画を樹て、昭和元年一二月三〇日右土地をいずれの土地も巾員四米ないし六米の私道に接するようにして百余筆に分割した結果本件土地及び別表記載の各土地が生じたこと、本件土地は当初より分譲地の道路敷地に予定されていたので、その当時からすでに完全な道路の形態に整備されていたこと、したがつて本件土地以外の土地が昭和二年初め頃から分譲地購入希望者に対しつぎつぎに売渡されたにもかかわらず本件土地は将来公道化する予定のもとに譲渡されることなく右朝倉、谷口両名の共有のまま残置されたこと、反訴原告等は右訴外人等から分譲された別表記載の各土地をそれぞれ現在所有していることが認められる。

そうして、前掲証人富永義彦、同加藤重三の各証言、反訴原告西垣勇本人尋問の結果に第一、二回検証の結果を総合すれば、別表記載の各土地はすべて前記分譲によつて公路に通ぜざる袋地となり、現在もその状態が変つておらないことが認められる。

してみれば別表記載の土地が分譲されたとき右土地の譲受人は民法第二一三条第二項により、右訴外人等の共有する本件土地につき囲繞地通行権を取得したものというべく、よつてその譲受人又はその譲受人から更に右土地を譲受けた者である反訴原告等は、本件土地につき囲繞地通行権を有するものというべきである。そして右通行権は袋地について法律上当然生ずる所有権の一作用であり、且つ不動産登記法はこれについて登記を認めていないから、右囲繞地通行権は登記なくしてこれを第三者に対抗し得るものというべきである。尤も民法第二一三条の無償通行権は被通行地の特定承継人には対抗することを得ない旨の見解(朝鮮高等法院昭和一二年一一月一二日判決)があるが、かかる見解は被通行地所有者の恣意により袋地所有者の既得権を不当に剥奪する結果になるから到底賛同し難い。よつて反訴原告等は本件土地の新所有者である原告に対し、右囲繞地通行権を以つて対抗し得るものというべきである。

なお民法第二一三条第二項は、袋地所有者が公路に至るため譲渡人の所有地を通行する権利があることを認めておるから、これを文字どおり解釈するならば、反訴原告等はその所有地から公路に達する間のみを通行し得べく、その他の道路を通行し得ないかの如き観を呈するが、本件土地は初めから分譲地所有者をして随意分譲地内を通行せしめるために閲設せられた道路であるから、本件の如き場合には右囲繞地通行権は拡張せられ、敢えて公路に至るためのみならず、分譲地内の他の土地に至るためにも本件土地を通行することができるものと解するを相当とする。

そして右通行権が無償であることは民法第二一三条によつて明らかである。

以上の理由により、

(1)  反訴原告等が別紙第二目録記載の土地につき無償の通行権を有することの確認を求める反訴請求は理由がある。

(2)  反訴原告等が通行以外の方法によつて本件土地に対する原告の所有権を妨害している事実はこれを認めるに足る証拠がなく、そして反訴原告等が右土地について通行権を有することは前記認定のとおりであるから、反訴原告等のその余の抗弁事実を案ずるまでもなく、原告の反訴原告等に対する妨害排除の請求は失当として棄却を免れない。

(3)  反訴原告等の有する囲繞地通行権が無償であることは前記認定のとおりであるから、原告の反訴原告等に対する使用損害金の請求は理由がない。

三、次に反訴原告等の通行妨害禁止の請求について案ずる。

成立に争いのない乙第一八号証の一ないし六、証人小栗太郎兵、同富永義彦、同川口銀久、同加藤重三の各証言及び第一、二回検証の結果を総合すれば原告は本件土地の所有権を取得するや、反訴原告等が右土地を通行することを禁止するため本件土地上の南側公道に接する個所(二七七三番の三五と同番の三六の中間附近)に通行禁止の立札を立てたり、右土地上の二個所に通行料徴収の公示板を設置したり、若しくは右土地上に家屋を建設しようとして建築許可を申請したり、更には本件土地の所々に杭を打つたりして反訴原告等の通行を妨害したことが認められる。

そうして、右事実からすれば、将来も原告が反訴原告等の本件土地の通行を妨害する挙に出るおそれが十分あるものと推認される。

よつて、反訴原告等は原告に対し、前記囲繞地通行権に基づき原告に対し通行妨害行為の禁止を求めることができるものというべきである。

第二、原告の被告中部電力、同電電公社に対する請求について

一、原告が別紙第一目録記載の土地を所有することは右被告等において争わないところである。被告等が原告の右土地所有権を何等争わないのに、その確認の訴を起提することは、訴の利益を欠くこと前記第一の一において説明したとおりである。よつて原告の右土地所有権確認の訴は不適法として却下を免れない。

二、第一回検証の結果によれば、本件土地上に被告等が原告主張のような電柱をそれぞれ設置していることが認められる。

そこで、原告の右電柱の撤去請求が権利濫用にあたるかの点について判断する。

成立に争いのない丙第三号証、証人大内麻呂の証言とそれによつて真正に成立したものと認められる丙第六号証、証人富永義彦、同加藤重三の各証言、反訴原告佐伯力次郎本人尋問の結果及び第一回検証の結果を総合すれば、昭和二年頃すでに、完全な道路の形態に整備されていた本件土地上に被告ら所有の電柱が設置されていたこと、右設置は当時の本件土地の所有者であつた前記朝倉、谷口両名の希望によつてなされたものであつて、爾来三〇有余年本件土地上にずつと被告等所有の電柱が設置されてきたこと、右電柱はいずれも道路敷地の側端に設置されているものであつて、これを存続させても本件土地の使用に支障を与えることが殆んどないこと、これらの電柱を撤去して他に移転することは本件土地附近の地形上極めて困難であることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。

そしてまた、右のような送電施設及び電話施設を撤去することが本件土地附近の住民に対し生活上重大な影響を及ぼすことは多言を要しないであろう。

したがつて右のような諸事情を考慮すれば、原告が本件土地を所有しているからといつて、直ちに被告等所有の電柱の撤去を求めることは正に権利の濫用にあたり、到底認容されるべきものではない。

第三、結語

以上の理由によつて、原告の所有権確認を求める本訴請求は不適法としてこれを却下し、原告のその余の請求はいずれも失当として棄却し、反訴原告等の反訴請求はいずれも正当として認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本重美 井野三郎 上田誠治)

第一、二目録図面別表(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例